読書会:ナラティブと心理療法

いろんな縁で学会でY先生にお会いしたときにお誘いいただいた会。
今回はこの本だった。

Healing Plots: The Narrative Basis of Psychotherapy (The Narrative Study of Lives)

Healing Plots: The Narrative Basis of Psychotherapy (The Narrative Study of Lives)

ライフ・ストーリー研究に手を出したり
心理臨床の場でもクライエントの語りを扱っていたりするのだけれど
普段なかなか,ナラティブって一体何なのかを考える余裕がなかった。
本の内容は盛りだくさんで消化不良なままだが
いろいろ考える良い機会だった。


以下,各章で印象的だったことをキーワード的にメモしておこう。

Ch1. 理性的で進歩していく自立的な個人を目指し,内面や行動の変化を起こそうとする従来の心理療法に対して,postpsychological therapyは,言語や行為を通じたクライエントの社会とのかかわりに注目する。人と人との間のナラティブを書き換え,社会プロセスに注目すること。
Ch2. Demonic narrativeとtragic narrative。因果論的に悪の根源を見出すナラティブと,災いは生における不可避なこととするナラティブ。
Ch3. 経済的,社会的窮乏にあって生活する女性のライフ・ストーリー。語り手のagencyを見出し,メタ物語を考える重要性。
Ch4. パートナーから暴力を受けた女性のナラティブ。この調査はフィンランドで行われているのでその文化がよく表れていた。「抽象的個人」「対等なパートナー」としてふるまうことが期待されるのだが,親密な関係での暴力には情動が結びつくのでそれが難しい。セラピーではその調整がなされた。
Ch5. 性的虐待の女性サバイバーのナラティブ。過去を打ち明けることをめぐる葛藤が取り上げられている。打ち明けられないということには,苦痛な体験をした時点に言う/聞く必要があった言葉が関連しており,過去の関係性が現在の関係においても繰り返し現れている。
Ch6. 母親の影響が強く,自分の人生を自分で語れていない若い女性が治療を通して語りの主導権を取り戻すというケース。バフチンが引用され,出来事をありのままに描写するepicなジャンルから,断片をつなぎ合わせて意味あるものにするnovelisticなジャンルへの転換,単次元のナラティブから対話的なナラティブへの転換としてまとめられている。
Ch7. 囚人やアルコール依存患者の,語りの再構成の社会的プロセス。回復過程において,他者の「類似物語」を聴くことの意味。「救済物語」。
Ch8. 人生での現在や過去の出来事を参照しながら自分の関係物語を語るというthe core conflictual relationship theme approachの紹介。そのとき相手との関係で何を願っていたか,相手はどのように反応したか,自分はそれに対してどう反応したか,を聞いていく。例として,ホロコーストのサバイバーの第2世代の語り。第2世代が成人期に対人関係で抱える困難や過敏さが表れた。
Ch9. イスラエルにおいて男性と暮らしていない女性(独身女性,夫と離婚や死別して女性一人で子育てをしている女性,レズビアンの女性)のライフ・ストーリー。多くが心理療法を受けていて,人生において対人関係でうまく折り合いをつけるためにセラピーが位置づけられており,様々な効果を持っていた。
Ch10. 癌で死につつある夫が死を前に夫婦関係の修復を求めてやってきたカップルセラピーの報告。お互いにすれ違いとなった決定的な場面に関する,夫婦関係の問題の鍵となる記憶を共有・交換し,ロールプレイで再現し,関係性を再構築していた。


出かける時間になってしまったので,とりあえずここまで。
考えたこと,学んだことはまた後日メモしよう。